パリをふしぎな遊び場に変えたヴァージル・アブロー:louis vuitton 2020ss
シカゴ出身のヴァージル・アブローがLouis Vuittonのメンズ アーティスティック・ディレクターとして独自の新しいヴィジョンを初披露してから1年が経つ。パレ・ロワイヤルを虹色のランウェイに変えたデビューコレクションの会場には2000人のゲストが集まり(そのうち600人はファッション、アート、デザイン、建築を学ぶ大学生たち)、彼らは56名の多様なモデルが、ラグジュアリーを新しい世界へと導くさまを目撃した。
2シーズン目のショーのテーマは、私たちが生きる世界に、希望、多様性、美を見つけることだった。彼のメッセージはこの1年、ずっとブレていない。
「僕は多様性を、そして、現代においてラグジュアリーがもっと広がりをもったものになる可能性を信じているんです」とヴァージルは6月20日に語った。「その信念のもと突き進んでいくつもりだし、少年としての完全無欠の自由、常に学び続けるその姿勢、そういった感覚は持ち続けていきます」
規範と規範のあいだを軽やかに躍び跳ね、ファッションからアート、インテリアから音楽、と物事の境界線を曖昧にする。そうやって彼は、常に自らに挑んできた。昔から突出していた学習意欲。彼らしさを構成する、少年のような素朴さ。みんなに伝染するほどに強力なエネルギー。3シーズン目となる2020春夏コレクションで私たちは、彼の目を通してふしぎの国を垣間見た。
「想像してみてほしい。1種類の花で埋め尽くされた庭。日光の輝きがない日の出。ずっと昔からある教会の尖塔が突然姿を消した地平線」ショーノートは私たちをこういざなう。「馴染みがあると、私たちは何よりもすばらしい物事を当たり前と思ってしまう」
失われた尖塔とは、ノートルダム大聖堂のことだ。もともとヴァージルは、今回のショーの会場をノートルダムの目の前にしようと考えていた。「あの尖塔が崩れ落ちたとき、ここにあるものをここにいるときに大切にしなければ、と強く感じました」
「毎日ルーブル美術館のそばを通っているかもしれないし、ノートルダムのそばを通っているかもしれない。エッフェル塔だってそうかもしれない。そのときは、自分にはそれらをみている暇がない、と思う。でもそれらが失われたとき、心に衝撃を受けるんです」とヴァージルはプレビューで語った。
ニュースの話題がノートルダムの火災で持ちきりだったあのとき、世界中から哀しみの声が寄せられたのは、まさにその心理が働いていたからだ。そこでヴァージルは、2020年春夏コレクションで私たちをいちど立ち止まらせ、バラの香りを楽しもう、自分の周りの世界を享受しよう、とメッセージを送ることにした。
ショーを通して想起するのは、パブロ・ピカソの有名な言葉。「すべての子どもは芸術家だ。問題は、大人になってしまったとき、どのように芸術家でい続けるか」。さながらファッション界のピーターパン。ヴァージルは今シーズンの招待状として、凧づくりキットを送付した。最後に凧あげをしたのはいつだったか思い出せなくても、LVモノグラムがあしらわれた凧をあげたくないひとはいないだろう。
ショー会場は結局ノートルダムの目の前ではなく、写真付きポストカードでよくお見かけするドフィーヌ広場となったが、Louis Vuittonはその場所を、ストリートパーティの会場に変えた。LVロゴが印象的なビニール製のお城が私たちを迎え、クレープスタンド、アイスクリーム屋さん、風船、シャボン玉などが空間を彩った。
ゲストたちはLVモノグラム入りのフラッグを手に持ち、様々なカフェのテラスに設けられた席へつく。フランク・オーシャン、スケプタ、ジジ・ハディッドをはじめとする一流セレブたちはLVモノグラム入りの大きなベンチに座って、子どものように地面から浮いた両足をブラブラと揺らしている。
「ユースはグローバル」とヴァージルは今シーズンver.の「ヴァージル・アブロー的語彙集」のなかで語っている。「私たちはひとつ。私たちは世界」